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宮崎地方裁判所 昭和36年(行)5号 判決 1964年3月19日

原告 溝口洋右

被告 宮崎税務署長

訴訟代理人 広木重喜 外四名

主文

原告の本訴請求中被告が昭和三一年一一月一五日附でなした原告の昭和二八年分贈与税の税額を八九万六、六〇〇円とする旨の更正が無効であることの確認を求める部分を却下する。

原告の本訴請求中その余の部分を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、原告の請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二、そこでまず昭和三一年一一月一五日附の贈与税更正処分の無効確認を求める訴が適法かどうかを検討する。

税務署長は課税価格又は贈与税額の更正後、その更正した課税価格又は贈与税額について過不足額があることを知つたときは、その調査により課税価格又は贈与税額を更正することができるのであつて、(相続税法第三五条第三項)再更正によつて、税額全部が改めて新な金額に決定されるのである。従つて再更正は当初の更正をそのままとして脱漏した部分だけを追加するものでなく、再調査によつて判明した結果に基いて課税価格又は贈与税額が全体として決定されるものでこの関係からみれば当初の更正は後の再更正に包摂され、再更正とは別に更正決定に対し不服申立をする実益はないものといわねばならない。すると昭和三一年一一月一五日附書面で通知された贈与税額の更正無効確認を求める訴は不適法であり却下を免れない。

三、つぎに原告が本件地上権及び地上立木を贈与に因り取得した事実があるかどうかについて判断する。

成立に争いのない甲第二、ないし第七号証乙第一号証、第三第四号証、第一五号証第一六号証の二、証人堀晋の証言により原本の成立が認められる乙第八号証の二、原告に関する部分を除いては成立に争いがない、乙第一〇号証、証人森元正美の証言により原本存在及びその成立が認められる乙第一三号証の三と証人溝口敬蔵(後記措信しない部分を除く)同溝口トメ(後記措信しない部分を除く)同関口武治、同森元正義、同堀晋の各証言と原告本人尋問の結果の一部(後記措信しない部分を除く)を綜合すると原告の父訴外溝口敬蔵は昭和二八年七月五日ごろ本件地上権(存続期間昭和一二年八月二五日から同三三年一〇月二五日まで)及び地上立木を取得したが同年八月二二日当時未成年者であつた原告の代理人として本件地上権を原告に贈与する旨契約し、同月二五日宮崎地方法務局椎葉出張所受附第五九七号で原告名義に地上権移転登記を経由した事実が認められる。このことはまた前記証拠によつて認定せられるように昭和二九年一一月同訴外人が代表取締役であつた訴外溝口林業株式会社が同会社の所得税法人税の滞納分の徴収猶予を被告に申請するに際し、同訴外人及原告の母訴外溝口トメは未成年者である原告の親権者として同人に代わり被告との間に保証契約を結び、原告所有の本件山林が林野整備法に基いて政府に買上げられた際の代金をもつて右保証債務を履行する旨約束したこと、同訴外人らは原告の親権者として原告に代理して昭和二九年二月訴外永和商事株式会社から資金の融通を受け、本件地上権の目的である土地の共有者からその持分を逐一買受け、同三〇年一月保安林整備臨時措置法に基いて、熊本営林局長との間に本件地上権の目的である山林の土地および立木を売買する契約をしその代金四三七〇万円を受領したこと、訴外溝口敬蔵は、原告の代理人として昭和三一年九月二六日(期限後)原告名義で昭和二八年分贈与税申告書を被告に提出したところ被告から前記のとおり更正決定があり無申告加算税を徴収する決定を受けたので同訴外人は被告に対し原告名義で再調査を請求したこと、被告はさらに調査の結果昭和三三年五月九日、課税価格と贈与税額の再更正を行い、その旨原告宛通知したので、訴外溝口敬蔵は右再更正についても昭和三三年五月二二日原告名義で再調査請求書を被告に提出したこと等の諸事実に照してみても充分推認し得るものといわねばならない。証人溝口敬蔵、同溝口トメの各証言ならびに原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前示各証拠に照し、たやすく措信することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

すると被告に於て原告がその父からの贈与により本件地上権を取得したと認定したのは相当であり、右認定に基いて原告の昭和二八年分贈与税を更正した被告の処分には違法はないから、原告のこの点に関する主張は理由がない。

四、つぎに被告の課税価格の認定に重大かつ明白な瑕疵があるかどうかについて検討寸る。

本件山林(土地及び地上立木)が昭和三〇年一月一六日熊本営林局長によつて土地実測面積一一二五町七反四畝七歩、立木一〇四万九六三九本、材積五七万三二八六石と算定され、代金四三七〇万円で原告から熊本営林局に売渡されたことは前記のとおり成立を認める乙第一三号証の三によつて明らかである。

そして成立に争いのない乙第一八第一九号証第二〇号証の一、二と証人土師正義の証言ならびに弁論の全趣旨によると、被告は贈与当時の本件地上権ならびに立木の評価について前記熊本営林局長の調査資料を基礎とし、相続税法ならびに国税庁長官通達に基く推計方法により課税価格を算出したことが認められる。そこで右推計の過程を検討するに、

1、地上権の評価については

地上権の設定されていない土地の昭和二八年中の売買実例を多数調査し、賃貸価格に対する時価が何倍になつているかを調べた結果、熊本営林局全管内の山林原野について右倍数は三〇〇〇(乙第一八号証)であり、本件地上権の目的である土地の面積賃貸価格ならびに右倍数により地上権の設定されていない場合の土地の時価を算出し、この土地の時価に法第二三条の規定による比率を乗じて地上権を評価し、

2、立木のうち、まつ、雑木、なら、かしの評価については熊本営林局の調査資料から得られた樹種別、経級別の立木本数、立木材積、買収評価額を基礎として、樹種別に樹令、立木面積を算出し、これに評価基準を適用して立木の価格を評価したが、右の評価基準は先づ標準状態にある森林の標準伐期令における立木の価格をその年の九月末日現在における発駅渡一石当り利用材積の価額、伐木造材費、木馬道架設費、搬出経費を基礎として算出し、標準伐期に達するまでの立木についてはグラーゼルの公式により算出した額、標準伐期令の二倍の樹令までの立木の価額は当該樹令に応ずる年利二分の利率による複利終価の額標準伐期令の二倍を超える樹令の立木は事情精通者の意見を参しやくして適当に定めた額とすることとし、標準状態にある森林以外の森林については、搬出等の便否(地利級と称す。)立木の生長量(地味級と称す。)単位面積当りの立木本数(立木度と称する。)の各要素毎に指数を定めて、評価額に格差を設ける方法によつて定めるものである。本件山林は地利級七級、地味級上、立木度中庸として綜合等級一三級と算定され、宮崎県標準価評額の二〇%に評価し、

3、立木のうち、もみ、つが、かや、けやき、ほほ、みづめ、さくら、くり、かえで(以下単にもみ外八樹種という。)については評価基準の定めがないため、まつ、雑木、なら、かしの評価基準による評価額の合計額五九九万三九五四円の同樹種の熊本営林局長の買収評価額一二九七万一一五五円に対する割合が〇、四六二であるからもみ外八樹種の熊本営林局長の買収価格二二二二万二一〇七円に右の〇、四六二の割合を乗じて、一〇二六万六六〇八円と評価し、

たものであり、被告の課税価格の認定は合理的であると認めるのが相当である。一方原告は本件地上権および立木の価格は五〇万円が相当であると主張し、証人溝口敬蔵の証言中には、右主張にそう部分があるが、同証言は地上権の存続期間が満了すると共にその立木の価値が全く失われるという前提に立つての証言であり右前提が不当であることは、地上権期間の満了によつて地上立木の所有権は土地所有権者に吸収されず独立して存続し、それ自体の価値を失うものでない点や、更に土地所有権者との間で権原を設定したり、同所有権を取得することによつて伐採することなく保持することができる点及び前記認定のように現実に被告が認定した金額以上に他に売却されている点等に照し明らかであり、右証言は採用することができない。その他前記推計の合理性を覆すに足る事実の立証はない。すると被告が本件贈与物件の課税価格を一六八五万一五六三円と認定し贈与税を七八七万八三二〇円と再更正した処分にはなんら重大かつ明白な瑕疵があると認めることはできない。よつて原告のこの点に関する主張も理由がない。

五、すると被告が昭和三三年五月九日なした原告の贈与税を七八七万八三二〇円とする再更正及び無申告加算税(昭和三一年一一月一五日附決定の分も含む)の徴収決定は無効のものということはできず、この点に関する原告の請求は理由がなく、棄却すべきものである。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主位のとおり判決する。

(裁判官 野田晋一郎 井上孝一 境野剛)

目録<省略>

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